設立趣旨
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特定非営利活動法人オホーツク鉄道歴史保存会

設 立 趣 旨 書

1 趣 旨

●オホーツクの鉄道史:その遺産と記憶を伝え遺す意味

明治44年の鉄道院網走線開通にはじまり、国鉄、森林鉄道、鉱山軌道、植民軌道など25の鉄道・軌道が走ったオホーツクは「鉄道王国」でした。国鉄や森林鉄道は林材資源の運び出しのために延伸され沿線には貯木場や木工所が立ち並び、オホーツクの多くの町々が林業の町として繁栄を謳歌しました。更には、金や水銀、鉄鉱石の運び出し、内陸部への農地開拓や農産物の運び出しを担ったオホーツクの鉄道は文字通り開拓と近代化の牽引車であり、今日のオホーツクを形づくる礎となりました。

鉄道はオホーツクに大きな繁栄をもたらすとともに、もう一方では建設にまつわる様々な苦難や悲劇も生みました。また鉄道と鉄道とともにあった林業、鉱業は一つの町や村を作り、人々を巻き込み、日常生活に深く結びついていました。鉄道の周りには、流された多くの汗や涙、犠牲があり、そして笑いと喜びがありました。

オホーツクの鉄道史を顧みることは、これに関わった人々と時代のスペクタクル、悲喜交々のドラマを見ることにほかなりません。オホーツクの今を歴史の中に置き、未来を構想するとき、鉄道と鉄道に関わる郷土の遺産と記憶を伝え遺すことは、未来への多くの示唆と教訓を与えてくれるものであると確信します。

しかし、当時の鉄道を動かし、あるいは鉄道に係る産業や作業に従事し、そしてそれを支えた人々に、その記憶を呼び覚まし実相を語ってもらうための残された時間は僅かです。オホーツクの鉄道遺産と記憶を収集し、記録し、保存する取組みは今まさに開始しなくてはならない喫緊の課題です。

 

    ●「丹尾遺産車両」の特質と保存の意義

     「丹尾遺産車両」は北見市の丹尾一男氏(故人)が収集した国鉄時代の車両7台から構成されます。キ100のラッセル車は北見保線区に配置され、キハ27は石北線の急行列車として使用され、ワフ29500緩急車は網走駅に常備された車両です。またスユ15の郵便護送車はこの型式として現存する全国ただ1両の貴重な車両です。

「丹尾遺産車両」は除雪車、郵便護送車、緩急車など「働く者の作業車」群としての特質を持ち、肉体労働が推進力であった時代を象徴するものです。厳寒のオホーツクで鉄道を動かすための最も過酷な作業が除雪でした。特にキ100は海岸線から内陸部までオホーツク中を駆け回り、最も活躍した車両です。現役当時、実際にこれを動かした人も高齢とはいえ健在です。運行に従事した者が語る実体験とともに、実際の車両が目の前にあることによって、歴史の記憶はリアルなドラマとなって人々の心に大きな感動を伝えてくれます。

しかし、「丹尾遺産車両」はいずれも長年の年を経て劣化が進み塗装剥がれ、腐食、雨漏り等、大規模な修繕と将来にわたる保守が必要な状態です。

 

●NPO法人の必要性とその役割

オホーツクの開拓と近代化の牽引車であった鉄道と鉄道に関わる郷土の遺産と記憶を掘り起し、記録・保存をして、その実相や意味を将来に伝えることはオホーツクの郷土史、近現代史の重要なテーマであり、学術文化そして社会教育の推進に大きな貢献をはたすものです。またオホーツクの鉄道の遺産と記憶の重要な部分を構成する「丹尾遺産車両」の修繕や保守はもはや一個人の労力と資金で賄える規模を超えています。

そのために、私たちは当法人を設立し、「丹尾遺産車両」の無償譲渡を受け、その修復保存と公開を広く人々の労力と資金を募って行うとともに、オホーツクの鉄道史と鉄道に関わる郷土史の発掘、保存、公開を非営利の活動として行うこととします。

国鉄の民営化後、オホーツクの多くの自治体が国鉄車両を借受け保存してきました。その意味ではオホーツクは「鉄道遺産車両の王国」といえます。しかし、自治体管理であるがゆえに市町村の垣根を越えて、これら遺産を学術・文化や社会教育に貢献させ、あるいは連携して観光にあたろうという取り組みはほとんど行われていません。あるものは放置され朽ちるに任された状態にさえあります。

オホーツクの鉄道遺産と鉄道の関わる郷土遺産の意味と価値を再認識させ、その保存と活用を進めるためには、自治体の垣根あるいは官民の垣根を超えて協働するネットワークが求められます。当法人はこの協働ネットワークのハブとしての機能を担い、時にはこの法人自体が保存活動を受託し、また広域観光を実践します。

2 設立に至るまでの経過

     2006(平成18)年、オホーツク最初の鉄道である網走線の鉄路が「北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」の廃線によりその姿を消したことを契機に、かつてのオホーツクの鉄道史を残そうという機運が高まりました。北海道新聞(オホーツク版)は、2008(平成20)年6月から7月にかけて「オホーツク廃止鉄路を訪ねて」を12回にわたり連載しました。

「丹尾遺産車両」の保存を進め、オホーツクの鉄道や鉄道に関わる遺産や遺構を発掘し、これを町おこしや新しい観光に育てようとする動きもこの年から本格化しました。ふるさと銀河線廃線後の沿線の振興と旧ふるさと銀河線の跡地利用が課題となる中、「ふるさと銀河線沿線応援ネットワーク」(現在の「石北沿線ふるさとネットワーク」)は、置戸森林鉄道の橋梁跡や車両庫などの遺構を探索する「第1回沿線応援ツアー」を開始し、あわせて旧ふるさと銀河線の検修庫に「丹尾遺産車両」とふるさと銀河線車両を移設展示し「鉄道歴史資料館」とするよう北見市への提言を行いました。

      旧ふるさと銀河線検修庫の「鉄道歴史資料館」としての活用はかないませんでしたが、「丹尾遺産車両」保存のための冬囲いや補修、車両公開、旧国鉄職員による解説ガイド等の取組みが今日まで継続的に取り組まれています。「沿線応援ツアー」も濁川森林鉄道跡や武利意森林鉄道跡の遺構発掘を進める地元団体との連携を深め、今日まで11回にわたるツアーが開催されています。

2011(平成23)年には、スユ15の車両内部を使って「網走線開業100年記念シンポジウム」を開催、2013(平成25年)年には「SLオホーツク号歓迎オホーツク鉄道遺産を巡るセミナーツアー」を開催するなど、オホーツクの鉄道遺産や産業遺産の保存活用を進める各地の観光協会や保存団体との連携が進んできました。

2020(令和2)年、「丹尾遺産車両」の所有者から、自らの高齢を理由に車両群を手放したい旨の意向が表明されました。しかし、「丹尾遺産車両」の特質と保存の意義を踏まえるならば、解体撤去ではなく、学術文化、社会教育への貢献、更には観光とまちづくりの推進のために、将来にわたりこれを保存公開することが必要と考え、広くこの事業に賛同する人々、修復保守のための技術を有する人々、学術・文化・博物に関する専門的知識を有する人々の参集を得るために、今日ここに当法人を設立するに至りました。

 

2021年7月11日